じっくりと作品を観察して作家がどんな技を使ったのか、どんなことを考えていたのかを考える美術展もいいけれど、気がつくと意識が作品の中へと飛んでいて、無意識がすべてになっているーーそんな美術展が好きだ。入った瞬間に非日常の別世界、別次元へと連れ込まれて、無意識なまま放浪している感じ。どうも私がそういう感覚に陥るのは時間を扱った作品が多いみたい。描くプロセスそのものをストップモーションで映像化した作品が多い(それでいてリズミカルな)石田尚志さんの初の大規模回顧展は、まさにそうした異次元への旅をさせてくれた久々の美術展。気がつくと無意識が自分のすべてになっていて放心状態、半瞑想で30点ほどの作品で構成された4つの世界を2〜3巡は回っていた。
作品作りはじめて30年になる石田さんだが、本展ではその作品を時系列に並べるのではなく、彼の作品がよく扱ってきた4つのテーマ「絵巻」、「音楽」、「身体」、「部屋と窓」の4章で構成されていて、それぞれの世界の中で30年の活動を一気に振り返ることで彼が、ここれら4テーマを継続的に扱ってきたことを見せている。
美術館のエントランスには石田さんが横浜美術館で4ヶ月間にわたって滞在製作した作品「海の壁ー生成する庭」が飾られている。本作は昨年から横浜美術館の推薦作品としてシンガポールで展示をされ海外のメディアからも高い評価を受けた。
その作品がシンガポールから海を渡って横浜港からこの美術館に戻り、本展覧会の後は沖縄に巡回をする、と言う。沖縄は石田さんがアーティストになる決意をし高校を中退した後に渡った土地で、本作が横浜で誕生し、シンガポールで脚光を浴び、再び横浜から那覇港を通して自らの出発地点へと旅立つことへの感慨を語っていた。
2015-03-27