諏訪綾子、フードクリエイションを率いる世界的に注目を集めるアーティストの1人だ。
フードアーティストとして、人々の内面に眠る好奇心や渦巻く感情を、食べることのできる作品として提示する希有なアーティストとして、アラン・デュカス氏主催のイベントでインスタレーションを展示したり、Christian Diorに招待されて作品をつくったり、Veuve Cliquotのクリコウーマンに選ばれたりと、ここ数年、海外での活躍も目覚ましい。
私が諏訪さんと初めてあったのは2012年のeatKANAZAWA。この素晴らしいイベントのおかげで、それ以来、親しくさせてもらっていて、
今年、TEDxTokyoでの見事な講演の直前も一緒に話ていた。「とても緊張している」と言っていた3分後に、
一瞬で空気を変え堂々としたプレゼンをしてみせるのをみて天性のものを感じた。
現在、金沢21世紀美術館では開館10周年としてフードクリエイションによる「好奇心の祝宴」という長期プログラムを開催しており、実はこのエリアだけ入場も無料になっている。実は諏訪さんは金沢出身のアーティストで、同館での展示以降、現在のスタイルを確立していったということでも21世紀美術館とも縁が深い。
金沢21世紀美術館の開館記念日は10月9日。その前後にはたくさんの特別プログラムが用意されていたが、その1つが「好奇心を味わう小部屋 Chamber of Curiosity」。フードクリエイションに属するフードハンターが集めてきたさまざまな食(や香り)の材料が素敵な小部屋に展示され、1日に数回、先着数名だけが中に招かれ、視覚、嗅覚、触覚そして味覚に加えて感情までも刺激するテイストを食することができるのだ。
幸運にも私は最終日、滑り込みで参加ができた。
「かなしさのテイスト」、「せつなさと不安が入り交じるテイスト」、「じわじわとわき起こる確信のテイスト」の3つのテイストを味わった。
13人ほどの参加者で男性は私と、お母さんに抱かれた幼児の2人だけ。
やはり、今時、女性の方が好奇心が旺盛…と思いきや、新たなテイストが出てくる度に、まっさきに手を伸ばしていたのは子供の方だった。
諏訪さんのTEDxTokyoのトークや展覧会の言葉でも書かれている「ナマコを最初に食べた人は勇気がある」も、実は最初に食べたのは子供かも知れない、と勘ぐってしまった ;-)
さて、その諏訪さんに2012年に約束史以来果たせなかった約束を今回、ついに果たせた。
フードクリエイションが、いつも突発的に開催するイベント、「ゲリラレストラン」への参加だ。
「ゲリラレストラン」は、諏訪さんのフード作品がコースとなって振る舞われる参加型のアート作品。
当然、参加には事前の予約が必要でドレスコードも黒。
私は今回、見学だけのつもりだったが、直前にキャンセルが出たということで急遽、黒服に着替えて参加させてもらった。
これまでにもイタリアVogueのフードライターを連れて行って紹介したりと、いろいろな場面で諏訪さんの作品を味見してきたが、
さすが「ゲリラレストラン」はぜんぜん違う。
空間、光、音楽そして給仕達一人一人の立ち居振る舞いや即興も作品の1つとなっている。
(それは小スケールのイベントでもそうなのだが、やはり、ゲリラレストランだと全然違う)
この日の着席フルコースでは9品が振る舞われた:
1.恥ずかしさと喜びが ゆっくり快感に変わるテイスト
2.驚きの効いた楽しさと 隠しきれない嬉しさのテイスト
3.苛立ちと悔しさが入れ混じるテイスト
4.哀しさのテイスト
5.幸せのテイスト 後から押し寄せてくるせつなさのテイスト
6.一瞬にして沸き起こる怒りのテイスト
7.嫉妬のテイスト
8.痛快さのテイスト
9.誇らしさのテイスト
驚きの効いた楽しさと 隠しきれない嬉しさのテイスト
嫉妬のテイスト
怒りのテイストは、これまでにも2度ほど試したことがあるが、あの給仕に、あの雰囲気の中でサーブされるとまったくの別モノに感じる。
(今回、気がついたが噴霧された後、口をしっかり閉じると、怒り?のこみあげ方がぜんぜん違う。むせてしまった)
他にもこれまで写真で見たことがある作品もいくつかあったが、それを実際に手で触れ、香りに驚かされ、歯と舌で感触を味わいつつ喉の奥に落とす。
「このじわっとくるのが悔しさなのか?」
「嫉妬って誰に対しての嫉妬なのだろう」
いつも美食を求めてさまよっている私だが、
ゲリラレストランでは、それとはまた別の形で五感のバルブを全開にして感情を味わう体験を楽しんだ。
誇らしさのテイスト
最後に出てきた「誇らしさのテイスト」も未体験の一品。
「口の中に、まさかこんな意外な襲撃が襲うとはヤラレた!」と驚かされた一品だった(あの煙をみて予想すべきだった…)。
ゲリラレストランでは、作品が振る舞われた後、諏訪さんが「それでは、ご賞味ください」(だったかな?)と言ってから
一気に口の中に放り込むルールになっている。
前の8品では、やや遠目に立って、これを言っていた諏訪さんだが、この最後の一品の時だけ私のすぐ後ろに立って「ご賞味ください」と言った。
そして口に入れた私が驚いて私の反応をじっくり味わうようにして足音が離れていったのが、なんとも印象的だった。
なんとも妖艶で不思議で、そして異次元な1時間、十分に堪能させてもらった。
体験しながら、デビッド・リンチ監督が体験したらなんというか、とずっと考えていた…
(リンチと言えばクリスチャン・ルブタンと仕事をしているし、ルブタンと言えば親しくさせてもらっている仏パロット社のCEO、アンリ・セドゥ氏が創業メンバーの1人。もしかしたら、彼経由でたどれるかな?)
9回の五感の冒険を繰り返すうちに身体の方も敏感になってきたようで、
小松空港からの帰りの飛行機では、お腹はいっぱいなのにやたらと嗅覚が敏感になり、遠方の席で開封されたお菓子の匂いまで感じている自分に驚かされた。
視覚情報や文字情報ばかりの現代、フードクリエイションの作品は、忘れていた感覚と人間の中の動物性を解き放ってくれるようだ。
なお、さすがに食べながら動画を撮る余裕はなかったけれど、ベルリン、他数都市でのゲリラレストランの様子がYouTubeに動画であがっています。
ベリリン編:
ちなみに、このfood creationの素晴らしい世界観の一角を担っているのが、現在、SOMARTAのブランドを展開するSOMA Designの廣川玉枝(諏訪さんと同じくCliquot Womanに選ばれた日本人で元イッセイ・ミヤケのデザイナー)。
di nobiにもレポートを挙げるつもりですが、メルセデス=ベンツ・ファッションウィーク期間中、渋谷SEIBUの7階で展示をしているので、お見逃し無く!